医療現場で管理職をしていると、経営層からは「成果」や「効率」を求められ、現場スタッフからは「人が足りない」「これ以上は難しい」という声が挙がります。
どちらも間違っていない。
むしろ、どちらも正しい。
だからこそ、板挟みは苦しい。
私自身も、経営と現場の間に立つ中で、何度もこのしんどさを感じてきました。
そして今、改めて思うのは、板挟みの苦しさは「頑張りや能力が足りないから」起きるのではないということです。
むしろ問題は、役割や責任、優先順位が曖昧なまま、個人の責任感に頼りすぎてしまうことにあります。
組織心理学の研究でも、医療従事者の燃え尽きには、単なる業務量だけでなく「役割の曖昧さ」が大きく関係するとされています。
自分は何を求められているのか。
どこまでが自分の責任なのか。
何を優先すればよいのか。
ここが曖昧なままだと、本来患者さんやスタッフに向けるべきエネルギーが、確認や調整、迷いに奪われていきます。
だからこそ、板挟みになったときに必要なのは、さらに頑張ることではありません。
必要なのは、混ざっているものを整理することです。
この記事では、経営層と現場スタッフの間で板挟みになり、「何をどう考えればよいのか分からない」と悩んでいる医療管理職の方へ、問題を整理し、判断しやすくするための3つの視点をお伝えします。
板挟みのとき|3つの視点(個人・チーム・組織のレイヤー)で整理
私が考える対処法は、大きく3つです。
- 個人では、分ける
- チームでは、つなぐ
- 組織では、決める
すべてを一度に解決しようとすると、確実に苦しくなります。
だからこそ、問題を「個人・チーム・組織」という3つの視点で整理し、そのときの状況に合わせて、対応を切り替えていきます。
① 個人|分ける → 絞る → 頼る

個人の対応は一貫して同じではなく、状況によって変わります。
初期時や余裕があるときは、問題を可視化・細分化し、
負荷が高まったときは、優先すべき課題に絞り、
限界に近づいたときは、一人で抱え込まず周囲に頼ることが必要になります。
問題を可視化し、細分化する|初期・まだ余裕があるとき
板挟みで苦しくなるとき、多くの場合、いろいろな問題が頭の中で混ざっています。
経営から言われたこと
現場からの不満
自分の責任感
できていないことへの焦り
相手への怒り
自分への失望
これらが一つの塊になると、何から手をつければよいのか分からなくなります。
だから最初にやることは、問題を可視化・細分化することです。
具体的には、
- 事実と解釈を分ける
- 自分の問題、現場の問題、組織の問題を分ける
- コントロールできること、できないことを分ける
この3つです。
この3つに分けて書き出すことで、頭の中の混乱をいったん整理します。
優先順位を決める|負荷が高まったとき
そして次にやることは、優先順位を決めることです。
すべてを同時に解決しようとすると、必ず行き詰まります。
だからこそ、
- 今、最も影響が大きいものは何か?
- 放置すると悪化するものは何か?
- 今すぐ対応できるものは何か?
この視点で、取り組む対象を絞ります。
ここで大切なのは、「正しい答え」を出すことではありません。
**「今、どこに力を使うかを決めること」**です。
例えば、
「現場が協力してくれない」と感じたときも、
- そもそも意図が伝わっていないのか?
- 今、余裕がない時期やタイミングなのか?
- 全体が疲弊しきっているのか?
ここを分けて考えることで、
- 伝え方を変えてみたらどうか?
- 業務量やタスクシフトを見直したらどうか?
- 組織として調整や介入が必要なのか?
対応の方向性と行動を1つに絞り、そこに集中します。
自分ひとりで抱えない|限界に近づいたとき
そして、もう一つ重要なのが、
👉 コントロールできないものに、エネルギーを使いすぎないことです。
経営の方針、組織の制度、他者の感情。
これらは、自分一人で変えられるものではありません。
それにもかかわらず、そこに意識を向け続けると、消耗だけが増えていきます。
だからこそ、
- 自分が今できること
- 自分の立場で影響を与えられること
に意識を戻すことが大切です。
ここまで整理してもなお難しいときは、無理に一人で抱え込まないことです。
むしろその状態は、「個人で扱う範囲を超えているサイン」です。
上司や同僚に状況を共有し、視点を増やし、判断を分散させる。
私は、これを常に意識していました。
分ける → 絞る → 頼る
整理しながら、対応していきます。
以下は、思考整理シート(個人版)の一例です。
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ここまでが、個人でできる整理です。
もし今、頭の中が混ざっていると感じているなら、まずはここだけで十分です。
ただ、個人で整理してもなお難しいときがあります。
そのときに必要になるのが、チームでの関わり方です。
② チーム|翻訳する → 翻訳し続ける → 期待値を合わせる

ポイントは “翻訳の質と頻度を上げていく”ことです。
経営と現場を、それぞれの言葉に翻訳する
次に大切なのは、チームの中で「つなぐ」ことです。
経営の言葉は、そのまま現場に伝えると、ときに冷たく聞こえます。
- 稼働率を上げてほしい
- 生産性を意識してほしい
- 残業を減らしてほしい
これだけを伝えると、現場は「また数字か」「現場の大変さを分かっていない」と受け取ることがあります。
一方で、現場の声も、そのまま経営に伝えるだけでは届きにくいことがあります。
- 人が足りません
- 忙しいです
- もう限界です
これだけでは、経営側にとっては、判断材料としては不十分です。
だからこそ必要になるのが、「翻訳」です。
経営の意図を、現場が受け取れる言葉にする。
現場の実情を、経営が判断できる言葉にする。
ここで大切なのは、「なぜ必要なのか」をセットで伝えることです。
ただ指示を伝えるのではなく、背景を添える。
ただ不満を伝えるのではなく、現状と制約を整理して伝える。
この一手間があるだけで、チーム内の摩擦は大きく変わります。
以下は、思考整理シート(チーム版)の一例です。
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③ 組織|決める → 再調整する → 仕組みを変える

組織の問題は、個人やチームの努力だけでは解決しません。
その背景にあるのは、多くの場合、
「決まっていないことが、決まっていないままになっている」状態です。
役割や責任、優先順位が曖昧なままだと、「何をすればよいのか」「どこまでが自分の責任なのか」を判断し続けることになります。
その結果、本来ケアやマネジメントに向けるべきエネルギーが、迷いや調整に奪われ、疲弊につながっていきます。
だからこそ、組織として必要なのは、管理職やスタッフの頑張りを求めることではなく、役割や優先順位を明確にすることです。
ただ、すべてを一度に変えることはできません。
そこで管理職としてできるのは、
👉 曖昧なままになっていることを、一つ言語化することです。
役割と優先順位を明確にし、明文化する
組織として「決める」こと。
板挟みが長く続く組織では、たいてい何かが曖昧です。
誰が何を担うのか。
どこまでが現場判断なのか。
何を優先するのか。
何をやめてもよいのか。
ここが曖昧なままだと、責任感の強い人ほど抱え込みます。
だからこそ、組織として必要なのは、
- 役割を分ける
- 優先順位を決める
- ルールとして共有する
ことです。
特に優先順位は重要です。
私が考える基本の順番は、
安全 > 継続 > 成果
です。
まず患者さんとスタッフの安全。
次に、現場が継続して回ること。
その上で、数値や成果を追う。
もちろん成果は大切です。
でも、安全や継続性を犠牲にしてまで追う成果は、長く続きません。
役割や優先順位を明文化することは、単なるルール作りではありません。
スタッフが迷わず動けるようにすること。
管理職が一人で抱え込まないようにすること。
そして、組織として同じ方向を向くための土台づくりです。
以下は、思考整理シート(組織版)の一例となります。
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要注意|板挟みでやってはいけないこと
板挟みのときほど、やってしまいがちなことがあります。

① 自分を責める、相手を責める
「自分の力が足りない」
「あの人たちが分かってくれない」
そう思いたくなることはあります。
でも、責める方向に行くと、問題の整理ができなくなります。
原因探しに偏ると、前に進めません。
② 強い責任感を持ちすぎる
責任感は大切です。
でも、強すぎる責任感は抱え込みにつながります。
特に医療職は、真面目で献身的な人ほど「自分が何とかしなければ」と思いがちです。
でも、組織の問題を一人で背負うことはできません。
責任感が強い人ほど、意識して手放すことも必要です。
③ 感情に捉われる、感情で判断する
怒り、不安、焦り、悔しさ。
板挟みのときには、いろいろな感情が出てきます。
感情が出ること自体は自然です。
でも、感情は大事なサインであって、判断基準そのものではありません。
「なぜ自分はこんなに反応しているのか」
「何が引っかかっているのか」
そう問い直すことで、感情を判断材料に変えることができます。
④ 完璧主義、全部やろうとする
板挟みのときに一番苦しくなるのは、全部を何とかしようとするときです。
でも、全部をやろうとすると、結局どれも中途半端になり、自分自身も消耗します。
全部やるのではなく、今いちばん大事なものを選ぶ。
そのために、役割と優先順位を明確にする。
これが、板挟みの中で自分と組織を守る現実的な方法だと思います。
⑤皆にいい顔をしようとする
経営にも応えたい。
現場にも分かってほしい。
患者さんにも迷惑をかけたくない。
自分もちゃんとやりたい。
どちらにも配慮しようとするあまり、判断を曖昧にしてしまうことがあります。
しかし、曖昧なままでは、現場も経営も動きにくい。
そして何より自分自身が苦しくなります。
必要なのは、全員に好かれることではなく、
今、すべき優先順位を明確にすることです。
嫌われたって良いんです。
わかってくれる人は、必ずいます。
まとめ|頑張りではなく、「整理する力」で乗り切る
医療現場の燃え尽きは、個人の弱さだけで起きるものではありません。
役割が曖昧なまま、責任感の強い人に負荷が集中すると、どれほど志の高い人でも疲弊します。
だからこそ、必要なのは「もっと頑張ること」ではなく、
個人では、分ける。
チームでは、つなぐ。
組織では、決める。
この3つの視点を整理し、板挟みの苦しさは、少しコントロールしやすくなります。
簡単にいかないことは、痛いほどよくわかります。
できるところから、1つずつ整理していくことが、結果として自分自身と現場を守ることにつながっていきます。

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